2017 / 10
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誕生日プレゼントは懐中時計がいい、と妹は言った。
あーはいはい、1000円くらいで売ってるポケットウォッチね、と答えておいて、私は内心焦った。じつはお財布の中、かなり厳しい。
まったくもう、なんだって五月の中旬に生まれたかね、瑞希は。タイミングが悪い子だ。
毎年のことだけど、母の日に奮発してお小遣い使っちゃった後になるから、妹の誕生日のことまで気が回らないって。
それにしても、なんで中学生が懐中時計なんて欲しがるんだろう。

 ふと部屋を見回せば、壁のフックに掛けたまんまだった季節外れのパーカーが目についた。
そういえば、今年はまだ衣替えをしていない。
私たち姉妹が幼い頃は、梅雨前に良いお天気が続くと、母は衣装ケースを残らず引っ張り出して衣替えをしていたっけ。
衣替えの時季は、前の年に気に入っていた服とのお別れの時季。お気に入りがもう着られなくなってしまった自分の成長が少し嬉しくて、少し淋しくて。そして小さくなった服は自動的に妹に「お下がり」だ。
 妹はモンクを言いながらも
「じつはこのワンピース、ねらってたんだー」
 なーんてニンマリしてる時もあって、憎らしかったものだ。
今はもう、瑞希は2歳下とは思えないほど背が高くなってしまった。スリーサイズだって私とほとんど変わらない。だから「お下がり」もとうに卒業してしまった。
それと共に、クローゼットの中を母に管理されるのに抵抗を感じて、いつのまにか「衣替え」も自分たちでするようになったんだっけ。

「で、なーんで懐中時計なわけ?」
 私の問いに、妹はアイスを口に運びながらモゴモゴ言った。
「だって結ちゃん、約束したじゃん。おじいちゃんの形見分けのとき」
「形見分け? おいおい、おじいちゃんが亡くなったのなんてもう随分前だし」
 言いかけて、あ、と私は言葉を呑みこんだ。

 約束、したのだ。幼い日の妹に。
 
 祖父の形見の懐中時計は壊れていたけれど、私たちにはとても素敵な宝物に見えて二人ともが欲しがった。けれど母は笑って、こんな古いもの、と言って相手にしてくれなかった。結局あの時計はどこへ行ったのか、私たちは知る由もない。
悔しくて泣き止まない妹をなだめる為に、私は約束した。
「いつか瑞希がお姉ちゃんと同じくらいに大きくなったら、素敵な時計を買ってあげるから」
 と。
 小学生の頃の約束を覚えてたのかっ、なんて妹だ……。

 結局、瑞希へのプレゼントはファンシーショップの安物でごまかした。
 どうせすぐに壊れるかも、だけどちゃんと形は「懐中時計」だ。おじいちゃんの時計には似ても似つかないけど、似たようなデザインだもの。高校生のお小遣いで買えるのはこの程度が限界なのだ、納得しろ。
「うふっ、まあ今回はこれで勘弁してやろう」
 相変わらず偉そうに、けれどかなり嬉しそうに妹は時計を見ている。
 その顔は、幼い日に「お下がり」をもらってニンマリしていた顔と変わらない。

 ああ、そう。
 妹が本当に欲しかったのは、時計じゃなくて……まあいいや。

(了)

使用お題:衣替え 季節外れ 懐中時計


【約束】
おはようございます。

「約束」軽いタッチでサクサク読めました。
短い中にもいろいろと思い出させてくれる物語ですね。
最後の、本当に欲しかったものは何だったのだろうと続きを読んでみたくなりました。

壊れた懐中時計我家もありました。(祖父のかな?)
衣替え完了には至ってません・・・。
妹の事、母の形見のあれは彼女が持ってった等、脳が刺激されました。(笑)
【>SORAさん】
わー、早速感想をv-237ありがとうございます。
創作仲間さんでお題を出し合って、その中から3つ以上選び1時間以内に作品を書く、という結構ハードな「お題バトル」がありまして。その提出作品です。
最後の部分が書ききれなくてちょっと消化不良です、すみません(汗)

そういえば我が家も衣替え済んでません……
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松果

Author:松果
まつか松果(まつかしょうか)

別サイトで自作小説書いてます。
1962年生まれ 2男1女を持つ田舎のオカンです。

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