2017 / 10
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 紫陽花ってやつは、夏以外は全く気配を感じさせない花だと思う。
 
 本当は、他の季節だって生きているのだけど、なぜか気付かない。そして梅雨時にあの大きな花房をつけるようになって初めて、その存在に驚かされるのだ。

 転校生の有亜(アリア)も、そういう意味では紫陽花のような子だったかもしれない。
 俺たちの中学にある日ひっそりと転入してきて、他の生徒とは違うデザインの制服を着、違う訛りでしゃべっているのに、さして違和感を感じさせないまま日々を過ごし、いつの間にか風景の一部になっているような子だった。
 同じクラスではなかったし、俺はどちらかといえばお調子者で、いつも何人かとつるんで騒いでいるほうだったので、アリアのようなおとなしい女子とは接点すらなかった。
 六月の、最後の土曜日までは。

 その日、悪天候で部活の終了が早くなったついでに、俺はいつもの通学路ではなく公園をつっ切って帰ろうとしていた。
 まだ7時前だというのに暗いのは、朝から続く雨のせいだ。
 大急ぎで公園を横切ろうとする俺の目は、ひとつの人影に吸い寄せられた。

 雨の中を、誰かがダンスしている。薄紫のタンクトップに白いシャツを羽織ったその人は、街灯に照らされながら細い手足をひらめかせた。
 誰も見ていない。誰かが拍手するでもない。
 俺が茫然と見守るうちに、その人は綺麗なムーンウォークをきめて俺の前で止まった。
「わたしを探してたでしょう」
 そう言って笑った顔には見覚えがあった。
「ええと、アリア? G組の転校生の」
「そうかもしれない」
 アリアは言って、顔に張りついた前髪を指先で分け、空を指差した。
「早く来ないから。月食に間に合わないよ」
「月食?」
 思わず、つられて空を見た。灰色の雲から雨が落ちてくるばかりで、月なんかもちろん見えやしない。
 はっと我に返って俺は自分の顔を手でわしわしと拭いた。
「おまえ、バカじゃね? こんな雨降って何が月食だよ。だいいち……」
 誰もおまえなんか探してないし、と言い返そうとしたそこには、もう誰の気配もなかった。
「なんだあ、あいつ……」
 からかわれたのかとも思ったが、急に寒気を感じて俺は足早に家に帰った。帰る道々、アリアの細い腕と「探してたでしょう」という声だけが気になって仕方なかった。

 翌日、G組のやつをつかまえて、俺は変な転校生のことを聞いてみた。ところが返ってきたのは、
「転校生なんていないよ。何かの間違いじゃないか」
 という言葉と怪訝そうな表情ばかりだ。信じられず何人かに聞いてみたが、皆そんな転校生は知らないという。
 狐につままれた、というのはこういう状態か。
 家に帰った時、俺はさらに驚いた。
「ほら、お前が探してたアルバム。中古ショップでやっと見つけたんだぞ」
 兄貴が差出したのは古いCDだ。外国語のタイトルが書かれている。
「俺、こんなの頼んだっけ」
「何言ってる、一度聞いただけの曲が忘れられないってしつこく探してたくせに」
 笑う兄貴の差し出すCDジャケットには、欠けていく月の連続写真。俺は奇妙な予感に戸惑った。
「この題名……なんて意味だ?」
「月食のアリア」

 その夜、俺は自室の床の上に座り込み、何度も何度も同じ曲を聴きながらつぶやいていた。
 こんなはずはない、何かの間違いだ、こんなはずはない……
 確かに、俺が一度どこかで耳にしてずっと忘れられなかった曲だ。
 
 静かな雨の音と共に、それは部屋の中で無限にリフレインをくりかえしていた。

(了)

お題小説バトル企画用の作品です
今回のお題:アンファンテリブル(恐ろしい子供みたいな意味)・アリア・花嫁・臥薪嘗胆・てんこもり・パズル・遺跡・夢・硝子・寄生虫・紫陽花・月食・ムーンウォーク

使用したお題:アリア・紫陽花・月食・ムーンウォーク



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【Re: アリアを探して】
>SORAさん
ありがとうございます。
創作仲間さんの内輪チャットから生まれた企画なんですが、皆で出し合ったお題の中から3つ以上選んで1時間以内にupする、というものです。
遅筆な私には結構ハードでしたけど、面白かったですよ。
推敲もろくにしていませんのでツッコミどころは満載なんですけどね(笑)
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松果

Author:松果
まつか松果(まつかしょうか)

別サイトで自作小説書いてます。
1962年生まれ 2男1女を持つ田舎のオカンです。

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