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2018-02

お題バトル小説:彗星・流星 - 2010.11.28 Sun

1時間という制限の中で、お題の中から3つ以上を使用して小説を書く、という企画の参加作品です。
時間内では書き上がらなかったので、翌日修正の上加筆し、「続きを読む」に後半を書いてなんとか完成しました。


~~~~~~~~~~~~~~~~


 寒い。着こんできたけど、明け方はやっぱり寒い。
 堤防沿いの家から、美味しそうな匂いと、うすい煙。暗いうちから朝ご飯の支度をしているらしい音は、魚屋の辰さんち。バイクで走りながらチラっとこちらを見ていくのは新聞配達。懐中電灯を片手に冷たい堤防に向かって歩く私なんかとは関係なく音はひとしきり響き、そしてまたしんと静まる、。
 5時40分。メールを確認するついでにチラッと時計の数字を確かめて、携帯を閉じる。
「来ないな、こりゃ」
 待ち合わせの場所、堤防の石灯篭あたりには誰もいない。東の空はまだ暗い。夜明けにはまだ早いし、中途半端に肥えてノホホンと輝いてた月も眠った。だからこそ、今が絶好の観察チャンスなのに。お月さんみたいな円(マル)の顔を思い浮かべて、私はふんっと鼻で笑った。

「俺、エンケ彗星なんだ」
 マルは照れくさそうにそう言ってた。親が天文ファンだったから、おうし座生まれの彼は、おうし座流星群の母星エンケ彗星から取って、円(えん)と名付けられたらしい。まったくいいネーミングセンスだ。あの丸顔にぴったりだもの。
 
 今年は流星群の当たり年なんだそうだ。けれどペルセウス座流星群も、オリオン座流星群も悪天候に邪魔されて見えなかった。だから11月のしし座流星群だけは一緒に見ようと約束したのに。
「流星が見えるのは6時頃からだぞ。とまとー、おま、朝弱いし忘れっぽいんだからよ。ちゃんと携帯のアラームセットしとけー」
 偉そうにそう言ってたのは円のほうだった。
 私に『とまと』なんて変なあだ名をつけたのも円だ。
 だから私も円(えん)のことをマルと呼んでやる。だってほんとにまんまる顔だから。

 5時50分。約束の時間まであと10分だけど、マルは現れない。こっちから電話する? まさか。
 きっと今頃どこかで、あーでもないこーでもないと夢中でカメラや望遠レンズを調整してるんだろう。携帯なんか鳴ったって耳になんか入るもんか。
 マルの夢は、天体写真家になること。
 約束のすっぽかしもすれ違いも、今に始まったことじゃない。空の写真ばっかり撮ってるオタク男子と付き合ってると、お天気次第で振り回されるのはもう慣れっこだ。
 海沿いのこの小さな町では、少し高台に上れば人工の灯りに邪魔されることなく月や星座の世界にどっぷり浸れる。雲が晴れたら要注意だ。ファインダーを覗く彼の頭の中じゃ、時間とか約束とか、そんな下界の面倒なことは、流れ星が消えるより簡単にすっ飛んでしまうらしい。
 
 だから。
 だからわかってるけど。
 ずるいよ、と思う。
 人間ならともかく、月や星が相手じゃ、私がどんなに頑張ったって敵うわけないじゃない。

「マルのばーかばーか、できない約束なら最初からすんな」
 すっかり冷え切った足でコンクリートを蹴って、堤防から飛び降りる。その途端、ポケットの携帯が鳴った。




 


『とまとー、そこでなにしてるー』
 携帯の向こうから聞こえるのんびり声は、予想以上にカチンとくる。
「なにしてるって……待ってるんでしょが。もう6時だよ? 夜が明けちゃうよ」
『すげーカッコで飛び降りてたな。戦隊ゴッコでもやってんのかと思った』
「なに、すごいカッコって、ええ? マル、どこにいんの? どっからかけてる?」
 私が驚いてきょろきょろ周囲を見回していると、
『上、上』という声が降ってきた。携帯からではない。
 堤防沿いの崖の上には、古い灯台跡がある。今では基礎部分と鉄柵しか残っていないその場所から、誰かが手を振っている。
「マルっ!」
 私は携帯を耳に当てたまま崖の上に向けて怒鳴った。
「さては望遠で見てるね。いつから? やめてよねそういう不審者っぽいの」
『悪りぃ。4時頃から準備してたんだけど、そこ、思った以上に条件良くなくて。雲も出てきたし、これ以上遅くなると撮影が難しくなるから移動した。あ、ほら流れた!』
 どこに、と聞き返すより早く、崖を見上げる私の視界を銀色の線が横切った。そしてまたひとつ。
『見えたか? 北斗七星からちょい南』
 私は答えなかった。眼に映るはずの流星の軌跡が、なんだかぼやけてくる。
「嘘つき。一緒に見ようって言ったよね」
『だから、今一緒に見てるだろ』
「こういうのは一緒って言わないんじゃない?」
 連続するシャッター音に混じって、マルが息を吐く音。それからぼそぼそ言う声が聞こえてきたた。
『俺は空ばっかり見てるけど、とまとのことだって見てるぞ、いつだって』
 
 すぅっと長い尾を引いて、特大の流星がひとつ。
 私の心臓の上をかすめて長く長く、輝きが消えた後も、いつまでも軌跡が見える気がした。

 なによそれ、と呟いて、私は星空に紛れる崖の上を見上げる。
 まんまる顔の、マルのくせに。
 いつも自分の進みたい軌道を走ってばかりで、忘れたころに近付くエンケ彗星のくせに。
 こんな暗い夜明け前の堤防に女の子をひとりで放っぽって。

 東の山の稜線が少し明るくなってきた。仕方ない、私は携帯をポケットにしまって走り出した。今は11月。しし座流星群を率いてる彗星はエンケじゃない。待っていたって向こうから近付いては来ないんだ。

 灯台跡に続く石段は、藍色の空に向かってる。
 見上げる先で、また一筋、銀色の光が駆け抜けた。
 きれい。本当にきれい。こんなことでもなければ気付かなかった、夜明け前の星空。
 
 やっぱりマルはずるいと思う。

(了)

使用お題
月 時計 すれ違い 寒い 輝き 煙 トマト 

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