2017 / 10
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1時間という制限の中で、お題の中から3つ以上を使用して小説を書く、という企画の参加作品です。
時間内では書き上がらなかったので、翌日修正の上加筆し、「続きを読む」に後半を書いてなんとか完成しました。


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 寒い。着こんできたけど、明け方はやっぱり寒い。
 堤防沿いの家から、美味しそうな匂いと、うすい煙。暗いうちから朝ご飯の支度をしているらしい音は、魚屋の辰さんち。バイクで走りながらチラっとこちらを見ていくのは新聞配達。懐中電灯を片手に冷たい堤防に向かって歩く私なんかとは関係なく音はひとしきり響き、そしてまたしんと静まる、。
 5時40分。メールを確認するついでにチラッと時計の数字を確かめて、携帯を閉じる。
「来ないな、こりゃ」
 待ち合わせの場所、堤防の石灯篭あたりには誰もいない。東の空はまだ暗い。夜明けにはまだ早いし、中途半端に肥えてノホホンと輝いてた月も眠った。だからこそ、今が絶好の観察チャンスなのに。お月さんみたいな円(マル)の顔を思い浮かべて、私はふんっと鼻で笑った。

「俺、エンケ彗星なんだ」
 マルは照れくさそうにそう言ってた。親が天文ファンだったから、おうし座生まれの彼は、おうし座流星群の母星エンケ彗星から取って、円(えん)と名付けられたらしい。まったくいいネーミングセンスだ。あの丸顔にぴったりだもの。
 
 今年は流星群の当たり年なんだそうだ。けれどペルセウス座流星群も、オリオン座流星群も悪天候に邪魔されて見えなかった。だから11月のしし座流星群だけは一緒に見ようと約束したのに。
「流星が見えるのは6時頃からだぞ。とまとー、おま、朝弱いし忘れっぽいんだからよ。ちゃんと携帯のアラームセットしとけー」
 偉そうにそう言ってたのは円のほうだった。
 私に『とまと』なんて変なあだ名をつけたのも円だ。
 だから私も円(えん)のことをマルと呼んでやる。だってほんとにまんまる顔だから。

 5時50分。約束の時間まであと10分だけど、マルは現れない。こっちから電話する? まさか。
 きっと今頃どこかで、あーでもないこーでもないと夢中でカメラや望遠レンズを調整してるんだろう。携帯なんか鳴ったって耳になんか入るもんか。
 マルの夢は、天体写真家になること。
 約束のすっぽかしもすれ違いも、今に始まったことじゃない。空の写真ばっかり撮ってるオタク男子と付き合ってると、お天気次第で振り回されるのはもう慣れっこだ。
 海沿いのこの小さな町では、少し高台に上れば人工の灯りに邪魔されることなく月や星座の世界にどっぷり浸れる。雲が晴れたら要注意だ。ファインダーを覗く彼の頭の中じゃ、時間とか約束とか、そんな下界の面倒なことは、流れ星が消えるより簡単にすっ飛んでしまうらしい。
 
 だから。
 だからわかってるけど。
 ずるいよ、と思う。
 人間ならともかく、月や星が相手じゃ、私がどんなに頑張ったって敵うわけないじゃない。

「マルのばーかばーか、できない約束なら最初からすんな」
 すっかり冷え切った足でコンクリートを蹴って、堤防から飛び降りる。その途端、ポケットの携帯が鳴った。




 


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松果

Author:松果
まつか松果(まつかしょうか)

別サイトで自作小説書いてます。
1962年生まれ 2男1女を持つ田舎のオカンです。

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